フレックスタイム制
- 2017.03.14
- 労働時間・休憩・休日・休暇
- 労基法
フレックスタイム制とは
1か月以内の一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲内で各労働日の労働時間を自分で決める制度。
始業時刻、終業時刻も労働者が自ら決定する。
休憩時間、休日は労働者の決定にゆだねない。
フレックスタイムは年少者には適用できない
満18歳未満の年少者には、フレックスタイム制を適用できない(労基法 第60条)
第三十二条の二から第三十二条の五まで、第三十六条及び第四十条の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。
(労基法 第60条)
使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
(労基法 第32条の3)
フレックスタイム制と認められない場合
次のような場合は、フレックスタイム制と認められない。
- コアタイムがほとんどで、フレキシブルタイムが極端に短い
- コアタイムの開始から終了までの時間と、標準となる1日の労働時間がほぼ一致している。
- 始業時刻、終業時刻のうち、どちらか一方だけを労働者の決定にゆだねている
- 始業時刻、終業時刻を労働者の決定にゆだねるとしながら、「始業から必ず8時間は労働しなければならない」ことを義務付けている
フレックスタイム制と労働時間
労働時間の規制は、協定で定める1か月以内の清算期間単位で行われる。1週、1日の規制がない。
使用者は、労働時間を把握する義務がある
フレックスタイム制では始業時刻及び終業時刻を労働者の決定に委ねることになるが、使用者には労働時間を把握する義務があり、労働者の各日の労働時間を把握しなければならない。
実際に働いた時間に不足が生じた場合
清算期間内に実際に働いた時間が清算期間内の総労働時間よりも少ない場合には、次のどちらかの取扱いをする。
- 不足分を翌清算期間に繰り越して清算する
- 不足分に相当する賃金をカットする
不足分を翌清算期間に繰り越して清算する場合
不足分を翌清算期間に繰り越す場合、清算期間の法定労働時間を超えて労働した場合には、割増賃金の支払が必要になる。
この場合の割増賃金は「0.25」の分。「1.0の分については、前清算期間にて支払い済みであるため。
実際に働いた時間に過剰が生じた場合
清算期間内に実際に働いた時間が清算期間内の総労働時間よりも多い場合には、不足が生じた場合の時のような「翌月に繰り越して清算」はできない。
賃金の全額払いの法則(労基法第24条)に違反してしまうため。
フレックスタイム制と時間外労働
時間外労働となるのは、清算期間全体で法定労働時間の総枠を超えたとき。
1日、1週については、法定労働時間を超えて労働をしても時間外労働とはならない。
下記は、原則通り適用される。
- 深夜労働(深夜割増賃金の支払)
- 休憩
- 休日(休日割増賃金の支払)
フレックスタイム制と休日
フレックスタイム制と振替休日
フレックスタイム制であっても、休日の振替は可能
清算期間内の休日数が確保され、かつ総労働時間の変化もない場合、特に問題は生じない
振り替えた休日が、翌清算期間に入る場合には注意が必要
- 法定休日を振り替えた場合には、休日手当の支払が必要になる
- 法定外休日を振り替えた場合には、時間外労働割増賃金の支払が必要になることがある。
- 当期の清算期間で総労働時間が増加するため法定労働時間を超えることがある。
フレックスタイム制と賃金
割増賃金
フレックスタイム制では、清算期間内の総労働時間数を基準として時間外労働等の有無が判断される。
そのため、時間外労働割増賃金の支払は、清算期間内の総労働時間が法定労働時間を超えたときに初めて必要とされる。
下記は、原則通り適用される
- 深夜労働割増賃金
- 休日労働割増賃金
コアタイム中の欠勤、遅刻・早退と賃金の控除
清算期間内の総労働時間数が満たされている場合、同一期間における欠勤・遅刻・早退の控除はできない。
コアタイムでの欠勤・遅刻・早退であっても関係ない。
コアタイムに遅刻・早退等をするような場合にどのような扱いにするかに関しては、就業規則で定めておく。
例えば、
- 就業規則に制裁を定め、規定に基づいて、コアタイムに遅刻・早退したときは減給の制裁をする。
- 清算期間中は、遅刻・早退・欠勤等の扱いをせず、賞与で減給の制裁または勤怠査定をする。
- コアタイムに遅刻・早退等をしなかった者に対して精皆勤手当を支給するようにする。
→結果として、コアタイムに遅刻・早退等があった場合には、精皆勤手当を支給しないことになる。 - コアタイムの遅刻・早退等を昇進・昇格等に関する人事考課の材料とする。
- コアタイムの遅刻・早退等が賞与の査定に反映するよう賃金規程に規定する。
など
減給の制裁について
1回の事案について、平均賃金の1日分を超え、総額が一賃金支払期の賃金の10分の1を超えてはならない。(労基法第91条)
賞与で減給の制裁をする場合も同じ。
制裁の事由が複数回に及んだとしても、減給の合計額が賞与総額の10分の1を超えてはならない。(S63基発150号)
制裁なので就業規則に記載が必要
- 正当な理由なくコアタイムに遅刻・早退、欠勤してはならない
など
精皆勤手当での調整
精皆勤手当は、遅刻・早退、欠勤が一定回数以下の場合に支給する手当。
フレックスタイム制では、コアタイムに対する遅刻・早退、欠勤だけが、精皆勤手当の支給、不支給の理由となる。
就業規則または労使協定でその旨を明確にする必要がある。
フレックスタイム制の導入要件
フレックスタイム制の導入には、就業規則と労使協定で一定の定めが必要
就業規則で定める事項
始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる旨
始業時刻か終業時刻のどちらか一方のみ労働者の決定に委ねるものは、フレックスタイム制にはならない。
労使協定で定める事項
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間の起算日
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイムを定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻
- フレキシブルタイムに制限を設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻
労使協定の届出は不要
1.対象となる労働者の範囲
対象となる労働者の範囲は、次のように様々な範囲で設定が可能。
- 各人ごと
- 部署ごと
- グループごと
- 事業場全体
2.清算期間
清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のこと。
清算期間の長さは、1か月以内に限る。(■法改正予定?)
清算期間は、賃金の計算期間に合わせて、1か月とすることが一般的。
清算期間を1週間とする事は可能。
フレックスタイム制において、労働契約上労働者が労働すべき期間を定めるものであり、その長さは、1か月以内の期間に限るものであること
(昭63.1.1 基発 1、平9.3.25 基発 195)
3.清算期間の起算日
清算期間の起算日は、単に「1か月」とせずに、毎月1日とか16日のように、明確にする必要がある。
賃金計算期間に合わせ、清算期間の起算日も賃金計算期間の始期に合わせるのが一般的。
4.清算期間における総労働時間
「清算期間における総労働時間」=清算期間の所定労働時間(合計)
のこと
「清算期間における法定労働時間の総枠」以内になるように定める。
「清算期間における総労働時間」 ≦ 「清算期間における法定労働時間の総枠」
清算期間における法定労働時間の総枠とは
清算期間を平均し、1週間の法定労働時間となる時間。
「清算期間における法定労働時間の総枠」=清算期間内の暦日数 ÷ 7 × 1週間の法定労働時間(40 or 44)
つまり、
清算期間における総労働時間 ≦ 清算期間の暦日数 ÷ 7 × 1週間の法定労働時間(40 or 44)
となるようにしなければならない。
参照:清算期間における法定労働時間の総枠
清算期間の 暦日数 |
法定労働時間の総枠(端数は切捨て) | |
---|---|---|
法定40H/週 | 法定44H/週 | |
31日 | 177.14H | 194.85H |
30日 | 171.42H | 188.57H |
29日 | 165.71H | 182.25H |
28日 | 160.00H | 176.00H |
一般的には、
標準となる1日の労働時間 × その月の所定労働日数
により定める。
5.標準となる1日の労働時間
年次有給休暇を使用したときの1日の労働時間を定めるもの。
基本は、清算期間内における総労働時間を、その期間における所定労働日数で割って求める。
フレックスタイム制の導入前の所定労働時間を採用することも多い。
フレックスタイム制において、年次有給休暇を使用した際に支払われる賃金の基礎となる労働時間の長さを定めるものであり、単に時間数を定めれば足りる。
(昭和63.1.1基発1、平成9.3.25基発195)
有給休暇を取得(使用)したときには、その取得した日について、「標準となる1日の労働時間」分の労働をしたものとして取り扱う。
標準となる1日の時間は次の(イ)(ロ)どちらかの方法で定める
- イ)1日の所定労働時間を定めておく
- ロ)「清算期間の総労働時間」 ÷ 清算期間内の所定労働日
一般的には(イ)の方法を使う場合が多い。
6.コアタイムを定める場合、その時間帯の開始及び終了の時刻
コアタイムとは、必ず勤務すべき時間帯のこと
コアタイムがない場合
- コアタイムは必ず設けなければならないものではないため、コアタイムがない場合、この部分は協定しなくて良い。
- すべての時間がフレキシブルタイムの扱いになる
- フレックスタイム制該当者との時間調整(連絡等)が困難になる場合がある
7.フレキシブルタイムに制限を設ける場合、その時間帯の開始および終了の時刻
フレキシブルタイムとは、その時間帯の中であればいつ出勤または退勤してもよい時間帯
7:00~22:00までの間で運用したいなどの場合に設ける。
コアタイムも無く、フレキシブルタイムにも制限が無い場合、24時間いつどの時間帯で勤務しても良くなる。
コアタイムやフレキシブルタイムの制限を設定した場合と、設定しない場合の比較
コアタイムの 定め |
フレキシブル タイムの制限 |
時刻 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
10:00- 15:00 |
7:00-10:00 15:00-22:00 |
0:00- 6:00 |
7:00- 10:00 |
10:00- 15:00 |
15:00- 22:00 |
22:00- 24:00 |
有 | 有 | 自由に出退勤 | 必ず勤務 | 自由に出退勤 | ||
有 | なし | 自由に出退勤 | 必ず勤務 | 自由に出退勤 | ||
なし | 有 | 自由に出退勤 | ||||
なし | なし | 自由に出退勤 |
フレックスタイム制のメリット・デメリット
メリット
- 身体的負担の軽減
- 勤務時間をずらすことができ、通勤ラッシュを避けることができる
- 「夜遅くまで勤務した日の翌日は遅めに出勤することが可能
- 残業の軽減につながる
- 個人が効率的に時間配分を行なうことが可能なため
- 優秀な人材の採用や定着の向上につながりやすくなる
- 働き方に自由性があるため
デメリット
- 時間設定が難しい
- 取引先や他部門との連携を行なうときに、出勤しているとは限らないため。
- コアタイムの範囲外での業務を命ずる場合に、個別同意が必要。
- 時間の管理ができない
- 自己管理ができない従業員の場合、時間に対してルーズになる。
コアタイム以外での就労を命じた際に労働者が拒否をした場合でも、拒否したこと自体を業務命令違反や欠勤とすることはできない。
査定において、勤務態度が消極的という評価を行うことは可能。
デメリットとは異なるが、フレックスタイム制は形骸化してしまうことがある。
- フレックスタイムに否定的だったり、理解が無い管理者がいる場合
- 職場風土としてフレックスタイム制を利用しづらい場合
- 始業時刻の全体朝礼などの参加が強制されている場合
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