同月得喪(入社月に退職した場合)の社会保険料

年度の始まりや年明け、9月などには新入社員が入ることが多くなります。
しかし、残念なことに入社してすぐに辞めてしまう従業員もいます。

入社してすぐに辞めてしまう中でも、入社した月に辞めてしまう場合には、社会保険の取り扱いが特殊ですので注意が必要です。

同月得喪

社会保険の取得日と喪失日が同じ月にあることを同月得喪といいます。

同月得喪のときの社会保険料の徴収

同月得喪のときの社会保険料の徴収は、通常の社会保険料の徴収と異なり、1か月分の社会保険料の徴収が必要になります。

これだけを聞いてもピンとこないので、通常の場合を書いてみます。

通常の社会保険料の徴収

社会保険料の徴収は1か月単位で行います。日割り計算はされません。

通常の社会保険料は、社会保険の取得日のある月から社会保険の喪失日の月の前月までが保険料支払の対象になります。

取得日と喪失日

取得日と喪失日という言葉が出てきましたね。取得日というのは加入日です。喪失日というのは社会保険に加入しなくなった日で、退社の場合は退社日の翌日です。

通常の場合の例

元に戻って、取得日のある月から社会保険の喪失日の月の前月までが保険料支払の対象をみてみます。

4/10入社、8/15退社であれば、取得日4/10、喪失日8/16となります。

社会保険料は、4月分~7月分(喪失日8/16の前月)が支払対象になります。

ここで注意が必要なのは、月末退職の場合です。なぜなら喪失日は翌日であるため、喪失日の月が変わり、社会保険料の支払対象が1月延びるからです。

上の例で8/31退職の場合、喪失日は9/1となり、社会保険料は4月分~8月分(喪失日9/1の前月)が支払対象になります。

これが月末の前日である8/30退職の場合には、喪失日が8/31となり、社会保険料は、4月分~7月分(喪失日8/31の前月)が支払対象になります。

同月得喪の場合の社会保険料

では、社会保険の取得日と喪失日が同じ月にある同月得喪に話を戻してみます。

例えば4/1入社、4/15退社の場合、取得日4/1、喪失日4/16です。

通常通りの社会保険料の支払対象の期間に当てはめて考えたとき、加入日からという考え方では4月分の保険料の支払が必要になります。一方、喪失日の前月までという考え方からは、4月分の保険料の支払が不要となります。

この場合の正解は、「4月分の保険料の支払が必要」です。

実務では、同月得喪の場合よりも、月末退職や月末の前日に退職するケースで社会保険料の徴収の有無を考えることが多く、喪失日の月の前月までという考え方を多用します。

そのため、月末以外で退職する同月得喪の場合も、なんとなく社会保険料の支払が不要なのかなと考えてしまいますが、実際には社会保険料の支払が必要なのです。

同月得喪のその後

実は、同月得喪の社会保険料については、これで終わりません。

平成27年10月から、厚生年金の保険料について、ちょっとしたルールが加わりました。

健康保険の保険料

厚生年金保険について書く前に、健康保険について参考程度に書いておきます。

日本は国民皆保険制度をとっているため、社会保険を喪失したあと、健康保険について、何かしらの医療保険に加入する必要があります。転職した先の社会保険や国民健康保険などです。

加入した医療保険で徴収される保険料も1か月単位での徴収です。同月得喪の対象者は1か月で2か月分の保険料を支払う必要があるということになります。

これは本人の問題であり、企業に直接の影響はありません。ちょっとしたルールが加わったのは、下に書く厚生年金保険料です。

厚生年金の保険料と返還

厚生年金保険を喪失した場合には、健康保険同様、他の年金制度へ加入することになります。

ただし、厚生年金の保険料については、健康保険の保険料と異なり例外があります。

次のイ・ロに当てはまる場合は厚生年金保険の保険料は徴収されません。
イ)同月中に厚生年金保険に再加入した場合
ロ)同月中に国民年金(第2号被保険者を除く)に加入した場合

ロは平成27年10月からルールが加わったものです。以前は、厚生年金保険喪失後に同月内に国民年金に加入した場合、厚生年金保険料・国民年金保険料がそれぞれ徴収されていました。

このルールの追加により、国民年金保険料のみを納付することとなり、厚生年金保険料は納付する必要がなくなったため、一度徴収した厚生年金保険料が返還されることになりました。

還付対象者の把握と還付請求

還付対象者がいる場合、年金事務所から通知が届きます。
その後、還付請求書を年金事務所に提出すると還付処理が行われ、保険料が返金されます。

返金は、会社負担分と従業員負担分の保険料が併せて会社に返金されます。

このため、退職した従業員へは会社から返金する必要があります。

実務では

退職した従業員へ返金処理をするのは手間が掛かる作業ですが、実務上は通常の同月得喪のとおり、厚生年金保険料を一旦徴収して対象者が出た場合に返還するというのが社会保険料の徴収漏れをなくす妥当な方法です。

なぜなら

イの場合の退職した従業員が同月内に転職したかどうかを把握することや、ロの場合の国民年金への加入の手続きを行うかどうかは給与計算の段階では未確定です。

退職する従業員の申し出をもとに厚生年金保険料を徴収しなかった場合で、例外に該当せず保険料の徴収が発生した場合には、本人に徴収できないという結果になってしまう危険性があるからです。

結論

同月得喪の時は、社会保険料を取る。

厚生年金保険料の返還があるときもある。

 

ちなみに、同じようなことを過去にも書いてありますが、直ぐに忘れてしまうので、再度書いてみました。

 

入社月の退職(同月得喪)時の社会保険料