懲戒処分

懲戒

懲戒とは、不正・不当な行為(罪)に対して、戒めの制裁(罰)を加えること。

懲戒処分を科すために必要なこと

懲戒処分が有効とされるためには、以下すべてに該当する必要がある。

  1. 就業規則に根拠となる規定がある
    1. 懲戒処分の事由
    2. 懲戒処分の手段
  2. 懲戒事由に該当する
  3. 社会通念上、相当である

就業規則に規定されている懲戒事由に該当するからと言って、重過ぎる量刑を科した場合は懲戒権の乱用として無効となる。
特に、懲戒解雇の場合は、労働者にとって大きな不利益となるため、注意が必要になる。

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
労働契約法 第15条)

懲戒解雇により、労働者が受ける不利益

  • 再就職が困難になる
  • 退職金が減額支給または無くなる
  • 雇用保険の給付が3か月間制限される

懲戒処分の要件

懲戒処分が有効とされるためには、次の要件を満たす必要がある。

  1. 罪刑法定主義
  2. 平等待遇の原則
  3. 二重処分の禁止(一事不再理)
  4. 不遡及の原則
  5. 個人責任の原則
  6. 相当性の原則
  7. 適性手続き

罪刑法定主義

  • あらかじめ、就業規則に懲戒事由(罪)、懲戒内容(罰)を明示すること

平等待遇の原則

  • すべての労働者を平等に扱うこと
  • 同様の事例について、先例を踏まえて懲戒を行わなければならない。

二重処分の禁止(一事不再理)

  • 同じ事由で二重に処分することはできない

不遡及の原則

  • 懲戒規定の作成・変更前に行われた行為・懲戒事由に対しては、遡って適用できない

個人責任の原則

  • 連座制は許されない

相当性の原則

  • 懲戒処分の種類・程度は、懲戒事由(罪)の種類・程度に照らして相当なものであること(客観的妥当性)が必要

適性手続き

  • 就業規則や労働協約などで定められた手続きが必要
  • 「懲戒委員会の議を経て」などの規定がある場合、これを怠ると懲戒が無効になる

懲戒処分の種類(罰)

懲戒処分には、次のようなものがある。1から数字が大きくなるごとに、処分が重いものになる。

  1. 戒告(かいこく)・けん責(けんせき)
  2. 減給
  3. 出勤停止・停職
  4. 降格
  5. 諭旨退職(ゆしたいしょく)
  6. 懲戒解雇

普通解雇は懲戒ではない。

戒告、けん責

従業員の将来を戒める処分。

  • 戒告 :口頭のみの注意
  • けん責:従業員に始末書の提出を求める

この他に、厳重注意や訓告などもある。
厳重注意 → 訓告 → 戒告 → けん責 の順に重くなる。

減給

減給は、労働した期間分の賃金を支払わない処分。ただ働き。

減給額には、次のような法律上の制限(上限)がある。(労基法第91条))

  1. 1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額以下
  2. 減給額の総額は、1賃金支払期における賃金総額の10%以下
    • 「1賃金支払期における賃金総額」は、実際の支給額のこと。
    • 遅刻早退や欠勤等による不就労分の控除がある場合は、不就労分の控除をした後の支払額のこと

出勤停止

労働者の出勤を停止する処分。
停職などとも呼ばれる。

出勤が停止された期間は不就労となり賃金の支払が発生しないため、結果として給料の減額となる。
「減給」の処分とは異なり、不就労の分の賃金を支払わないだけなので、減額に上限はない。

ただし、「就労の有無に関係なく賃金を支払う」というような契約や合意がある場合には、減額することができない。
このような契約の場合に出勤停止を命じると、休暇を与えるだけになり、制裁になりにくい。

出勤停止があまりにも長期にわたるものは、公序良俗に反し許されない。

降格

従業員の職位を下げる(役職を低いものにする)こと。
課長から係長、係長から平社員など。

これに伴い、職位に応じて支払われている役職給などを減額とすることが一般的。

2種類の降格

降格は、人事権行使のものと、懲戒処分とがある。

  • 人事権行使のもの(能力不足など)
    • 就業規則等に明示がなくても可能
    • 契約で職位が限定されている場合、契約の職位を下回る降格は不可能
  • 懲戒処分によるもの
    • 就業規則等への明示が必要。

諭旨退職

従業員の自主的な退職。
本来は懲戒解雇に相当するが、反省しているので、懲戒解雇のデメリットを抑える処置として行う事実上の解雇。

企業側が従業員に退職を勧告し、従業員本人からの願い出による退職という形をとる。

諭旨解雇

本来は懲戒解雇に相当するが、反省しているので、普通解雇と同様に解雇予告を行い(または解雇予告手当を支払い)、退職金の支払いも行って解雇する。

懲戒解雇

懲戒処分の中で最も重い処分。懲戒処分として解雇を行うこと。

懲戒解雇の場合、次のようなことが多い

  • 解雇予告無しの即時解雇
  • 退職金不支給

ただし、解雇予告義務の適用の有無、退職金不支給の適法性などは、懲戒解雇とは区別して判断される。
懲戒解雇は有効だが、退職金の全額不支給は無効という裁判例もある。

懲戒処分の対象(罪)

次のようなものが懲戒処分の対象とされる

  • 経歴詐称
  • 業務命令違反
  • 服務規律違反
  • 企業の施設・物品の私的利用
  • 業務外(私生活)での非行
  • 二重就職・兼業

経歴詐称

  • 重要な経歴を詐称した場合。(軽微な経歴詐称は懲戒事由に該当しない。)

業務命令違反

  • 使用者からの業務命令に反した場合、業務命令違反として懲戒の対象となる。

服務規律違反

  • 就業規則に規定された服務規律に違反する行為

企業の施設や物品の私的利用

  • 就業規則で企業の施設や物品の私的利用が禁じられている場合

業務外(私生活)での非行

従業員の私生活での非行であっても、懲戒処分の対象となりえる。
企業の名誉や信用を損なうことがあるため、

  • 兼業が深夜にまでおよび、労務提供に具体的に支障が生じるといえる場合
  • 同業他社での兼業や競合する事業を自ら営むなど、企業への背信性が認められるといえる場合

就業規則に定めがない場合の懲戒処分

  • 懲戒に関して就業規則等で定めていないときは、労働者の合意が必要。
    • 合意が得られない場合は懲戒処分を行うことはできない。