トライアル雇用助成金2025
要旨
トライアル雇用制度は、職業経験の不足や障害などを理由に安定した就職が困難な求職者を、企業が原則3か月間の試行雇用(有期雇用)を通じて、その適性や能力を見極めた上で常用雇用への移行を促進することを目的とした制度である。求職者と求人者の相互理解を深め、雇用のミスマッチを防ぐことで、早期就職と雇用の安定化を図る。
本制度は、主に2つの柱で構成される。
一つは、離転職を繰り返している者や長期失業者など、幅広い層を対象とする「一般トライアルコース」。
もう一つは、障害のある方の雇用促進に特化した「障害者トライアルコース」および「障害者短時間トライアルコース」である。
事業主には、制度利用のインセンティブとして、対象者の試行雇用に対して助成金が支給される。特に障害者トライアル雇用においては、常用雇用への移行率が8割を超えるなど高い実績を上げており、障害者雇用に対する企業の不安を払拭し、雇用機会を創出する上で重要な役割を果たしている。
近年では、精神障害者を雇用する場合の助成額が拡充されたほか、ウクライナ避難民などに代表される「補完的保護対象者」が新たに対象者に加えられるなど、社会情勢の変化に対応した制度改正も行われている。
1. トライアル雇用制度の概要
1.1. 目的と趣旨
本制度の根幹にある目的は、職業経験、技能、知識の不足等から安定した職業に就くことが困難な求職者に対し、常用雇用への移行を前提とした試行雇用の機会を提供することにある。
この試行期間を通じて、求職者は仕事内容や職場環境への理解を深め、事業主は対象者の適性や業務遂行能力を実務の中で見極めることができる。
これにより、求職者と求人者の相互理解を促進し、雇用のミスマッチを解消することで、求職者の早期就職の実現と雇用機会の創出を目指すものである。
1.2. 制度の構成
トライアル雇用制度は、対象となる求職者の特性に応じて、主に以下のコースに大別される。
コース名 | 主な対象者 |
一般トライアルコース | 職業経験不足、離転職の繰り返し、長期の離職期間など、安定した就労に困難を抱える求職者全般。 |
障害者トライアルコース | 障害者雇用促進法に定める障害のある方。週20時間以上の勤務が前提。 |
障害者短時間トライアルコース | 精神障害または発達障害があり、当初は週20時間以上の勤務が困難な方。週10時間以上20時間未満から開始し、段階的に勤務時間を増やすことを目指す。 |
2. 一般トライアルコース
2.1. 対象となる求職者
以下のいずれかの要件を満たし、ハローワーク等の紹介日に本人がトライアル雇用を希望した場合に対象となる。
- 離転職を繰り返している方:紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職または転職を繰り返している。
- 長期離職者:紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている(パート・アルバイト等を含め一切の就労をしていない)。
- 出産・育児等による長期離職者:妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている。
- 個別支援を受けている方:60歳未満の方で、ハローワーク等で担当者制による個別支援を受けている。
- 特別な配慮を要する方:生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者、生活困窮者、ウクライナ避難民、補完的保護対象者。
【対象外となるケース】 紹介日時点で、安定した職業に就いている方、週30時間以上稼働している自営業者・役員、卒業年度の1月1日を過ぎても内定がない場合を除く在学中の方、他の事業所でトライアル雇用期間中の方は対象外となる。
2.2. 制度内容
- 期間:原則3か月間。
- 労働時間:原則として、通常の労働者と同じ週所定労働時間(週30時間以上)。
2.3. 事業主への助成金
- 支給額:対象者1人につき月額最大4万円。対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合は月額最大5万円。
- 支給期間:最長3か月間。
- 支給額の調整:1か月間の実労働日数が予定労働日数に対して一定の割合を下回る場合、支給額は減額される。
実労働日数の割合 | 支給額(月額4万円の場合) | 支給額(月額5万円の場合) |
75%以上 | 40,000円 | 50,000円 |
50%以上75%未満 | 30,000円 | 37,500円 |
25%以上50%未満 | 20,000円 | 25,000円 |
0%超25%未満 | 10,000円 | 12,500円 |
0% | 不支給 | 不支給 |
3. 障害者トライアルコース及び障害者短時間トライアルコース
3.1. 制度の目的と効果
障害者トライアル雇用は、障害のある方と事業主の双方が、試行雇用を通じて相互理解を深め、継続雇用へ繋げることを目的とする。これにより、事業主は「どのように接したらいいか」「どんな仕事を任せられるか」といった不安を解消し、対象者に適した業務や必要な配慮を具体的に把握できる。一方、求職者は仕事への理解を深め、自身の適性や職場環境を見極めることができる。
その結果、安定して長く働き続けられる傾向があり、データによると本制度利用者の1年後の職場定着率は全体平均を上回っている。また、常用雇用への移行率は近年8割を超えており、高い成果を上げている。
障害者トライアル雇用の活用実績
年度 | 開始者数 | 継続雇用率 |
令和2年度 | 6,759人 | 81.4% |
令和3年度 | 6,831人 | 80.4% |
令和4年度 | 6,312人 | 80.3% |
3.2. 対象となる求職者
障害者手帳の有無にかかわらず、障害があり、以下のいずれかに該当する方が対象となる。
- 未経験の職業に挑戦したい方:就労経験のない職業に就くことを希望している。
- 離転職を繰り返している方:紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している。
- 長期離職者:紹介日の前日時点で、離職期間が6か月を超えている。
- 重度身体障害、重度知的障害、精神障害のある方:上記1~3の要件に関わらず対象となる。
特に、障害者短時間トライアルコースは、精神障害者または発達障害者で、週20時間以上の勤務が難しい方を対象としている。
3.3. 各コースの詳細
コース名 | 対象障害 | 期間 | 週所定労働時間 |
障害者トライアルコース | 全般 | 原則3か月(精神障害者は原則6か月、最大12か月まで延長可) | 20時間以上 |
障害者短時間トライアルコース | 精神障害者・発達障害者 | 3か月~12か月 | 開始時10~20時間未満、期間中に20時間以上を目指す |
3.4. 事業主への助成金
- 支給額:
- 障害者トライアルコース:対象者1人につき月額4万円。 ただし、精神障害者を雇用する場合は、雇入れから最初の3か月間は月額8万円、その後の3か月間は月額4万円が支給される(平成30年4月拡充)。
- 障害者短時間トライアルコース:対象者1人につき月額4万円。
- 支給期間:
- 障害者トライアルコース:最長3か月(精神障害者の場合は最長6か月)。
- 障害者短時間トライアルコース:最長12か月。
- 支給額の調整:一般トライアルコースと同様に、実労働日数の割合に応じて支給額が減額される。
実労働日数の割合 | 障害者トライアルコース(通常) 障害者短時間トライアルコース | 障害者トライアルコース (精神障害者、最初の3か月) |
75%以上 | 40,000円 | 80,000円 |
50%以上75%未満 | 30,000円 | 60,000円 |
25%以上50%未満 | 20,000円 | 40,000円 |
0%超25%未満 | 10,000円 | 20,000円 |
0% | 不支給 | 不支給 |
4. 制度利用の流れと手続き
制度利用のプロセスは、求職者、事業主、ハローワーク等の紹介機関が連携して進められる。
- 求人申込み:事業主がハローワーク等に「トライアル雇用求人」を提出する。
- 求職登録・職業相談:求職者がハローワーク等で登録し、制度の説明を受け、対象者であることの確認を受ける。
- 職業紹介:ハローワーク等が対象求職者にトライアル雇用求人を紹介する。
- 選考・面接:事業主が応募者の選考を行う。障害者トライアル雇用では書類選考だけでなく、必ず面接が行われる。
- 雇入れ・トライアル雇用開始:採用が決まり、有期雇用契約を締結して試行雇用を開始する。
- 実施計画書の提出:事業主は、トライアル雇用開始日から2週間以内に、紹介を受けたハローワーク等に「トライアル雇用等実施計画書」を提出する。この際、常用雇用への移行要件について求職者と合意しておく必要がある。
- トライアル雇用終了:試行雇用期間が満了。
- 常用雇用への移行判断:事業主と労働者の双方が合意すれば、常用雇用(無期雇用)契約を締結する。
- 助成金の支給申請:事業主は、トライアル雇用終了日の翌日から2か月以内に、管轄の労働局またはハローワークに支給申請書を提出する。
5. 助成金支給の主要要件と注意点
助成金を受給するためには、事業主は多くの要件を満たす必要がある。特に以下の点は重要である。
5.1. 事業主の適格性
以下に該当する場合など、助成金の支給対象とならないケースがある。
- 離職者の発生状況:トライアル雇用開始日の前6か月から終了日までの間に、事業主都合による解雇等がある場合。また、同期間に、特定受給資格者となる離職者(離職区分コード1Aまたは3A)の割合が、雇用保険被保険者数の6%を超えている場合(離職者4人以上の場合)。
- 対象労働者との関係:対象者が事業主の3親等以内の親族である場合。また、過去3年間に対象者と雇用、請負、委任等の関係があった場合。
- 過去のトライアル雇用の実績:過去3年間に実施したトライアル雇用で、常用雇用へ移行しなかった者の数が3人を超え、かつ常用雇用へ移行した者の数を上回っている場合。
- 法令遵守・労務管理:労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の法定帳簿を整備・保管していない場合。高年齢者雇用確保措置に関する勧告に従っていない場合など。
5.2. その他の留意事項
- 他の助成金との連携:トライアル雇用終了後、常用雇用へ移行した対象者(母子家庭の母等や障害者など)については、要件を満たせば「特定就職困難者雇用開発助成金」を別途受給できる場合がある。
- 選考方法:トライアル雇用対象者の選考は、書類選考だけでなく面接で行うことが推奨されている。
- 求人数の上限:提出した求人数を超えてトライアル雇用を開始することはできない。
6. 活用事例
【ケース1:重度知的障害・難病のある男性(40代)】
- 事業主:畜産食料品製造業(小規模、障害者雇用経験なし)
- 課題:事業主は障害者雇用に漠然とした不安があった。本人は手厚い支援体制が必要だった。
- 支援:地域障害者職業センター、就業・生活支援センター等が連携しチームで支援。トライアル雇用を活用し、養鶏作業員として開始。
- 結果:事業主は実際の作業状況を間近で確認でき、労働能力を把握し不安を払拭。トライアル終了後、継続雇用に移行した。
【ケース2:広汎性発達障害のある男性(20代)】
- 事業主:設備工事業(過去に障害者雇用で短期離職の経験あり)
- 課題:事業主側は過去の経験から不安が大きく、本人は対人関係や突発的な対応が苦手だった。
- 支援:トライアル雇用期間中からジョブコーチ支援を活用。担当者を固定し、指示方法を工夫するなどの環境整備を行った。
- 結果:ジョブコーチの助言により担当者が障害特性を理解し、職場全体での受け入れ態勢が整備された。
【ケース3:精神障害(統合失調症)のある女性(30代)】
- 事業主:病院(精神障害者の雇用経験なし)
- 課題:事業主はどのような仕事を任せられるか分からず、具体的な業務の切り出しが課題だった。
- 支援:ハローワークの専門サポーター等が事業所を訪問。本人ができるコピー業務やカルテ搬送などの仕事を具体的に掘り起こした。
- 結果:支援者が職場に入り込むことで、適切な仕事の割り当てが可能となった。トライアル終了後も継続雇用され、事務職として勤務している。
