「受動喫煙防止対策助成金」
1. この助成金は何のため?目的を理解しよう
厚生労働省がこの助成金を提供するのは、労働安全衛生法に基づき、事業者が職場での受動喫煙防止対策を講じることを支援し、労働者の健康を守るためです。
この制度を活用することで、事業者には次のようなメリットがあります。
- 従業員と顧客の健康を受動喫煙から守ることができる
- 誰もが快適に過ごせるクリーンな職場環境を実現できる
それでは、具体的にどのような事業者がこの助成金の対象となるのか見ていきましょう。
2. あなたの会社は対象?助成金の対象となる事業者
申請を検討する事業者が最初に確認すべき「対象者の条件」を明確にします。
2.1 助成対象となる中小企業の条件
まず、大前提として、健康増進法に規定する「既存特定飲食提供施設」を営む事業者であることが必須要件です。
「既存特定飲食提供施設」とは、以下の3つの条件をすべて満たす飲食店のことを指します。
- 営業開始日: 2020年4月1日時点で、すでに営業していた施設であること。
- 資本金: 資本金の額または出資の総額が5,000万円以下であること。
- 客席面積: 客席部分の床面積が100平方メートル以下であること。
その上で、以下のいずれかの条件を満たす中小企業事業者である必要があります。資本金の定めがない個人事業主などは、常時雇用する労働者数で判断されます。
業種分類 |
業種の例 |
常時雇用する労働者数 |
または |
資本金の規模 |
小売業 |
飲食店、小売業 |
50人以下 |
または |
5,000万円以下 |
サービス業 |
宿泊業、娯楽業、医療・福祉 |
100人以下 |
または |
5,000万円以下 |
卸売業 |
卸売業 |
100人以下 |
または |
1億円以下 |
その他の業種 |
製造業、建設業、運輸業 |
300人以下 |
または |
3億円以下 |
2.2 こんな場合は対象外!主な不交付要件
以下のいずれかに該当する場合、助成金は交付されませんのでご注意ください。
- 労働保険料を滞納している場合
- 過去3年以内に、労働関係の給付金で不正受給を行ったことがある場合
- 申請時点で倒産している場合
- 助成事業(工事や支払い)を申請した年度内に完了できない場合
自社が対象であることが確認できたら、次に助成金の具体的な内容を見ていきましょう。
3. いくら、何に使えるの?助成内容の詳細
このセクションでは、助成金の具体的な金額と対象となる工事内容を解説します。
3.1 助成される金額と上限
助成率と上限額は以下の通りです。
- 助成率:
- 飲食店: 経費の 2/3
- その他の業種: 経費の 1/2
- 上限額: 100万円
計算例:単位面積あたりの経費上限に注意
この助成金には「1平方メートルあたり60万円」という経費の上限が設定されています。例えば、飲食店以外の事業者が3㎡の喫煙室を設置するのに300万円かかった場合で考えてみましょう。
- 単位面積あたりの経費を計算 300万円 ÷ 3㎡ = 100万円/㎡ これは上限の60万円/㎡を超えています。
- 助成対象経費の上限を適用 この場合、助成対象として認められる経費は以下の通り計算されます。 60万円/㎡ × 3㎡ = 180万円
- 最終的な助成金額を計算 飲食店以外の助成率は1/2なので、最終的な助成金額は以下となります。 180万円 × 1/2 = 90万円
このように、経費の上限が適用される場合があるため、計画段階での正確な見積もりが重要です。
3.2 対象となる工事の種類
助成対象となる喫煙室は2種類あり、室内での飲食可否に違いがあります。
種類 |
説明 |
室内での飲食など |
喫煙専用室 |
たばこの喫煙のみを目的とした部屋。 |
不可 |
指定たばこ専用喫煙室 |
加熱式たばこのみ喫煙可能。 |
可能 |
どちらの喫煙室を設置する場合でも、たばこの煙が外部に流出するのを防ぐための技術的基準(例:出入口における室内への空気の流入風速0.2m/s以上、壁・天井等による区画、屋外への排気)を満たす必要があります。
3.3 対象となる経費・ならない経費
助成金の対象となる経費とならない経費の主な例は以下の通りです。
対象となる経費の例 |
対象とならない経費の例 |
• 工事費(設計費、材料費、人件費など) |
• デザイン料、コンサルティング費用 |
• 設備費(換気扇、空気清浄機など) |
• 助成金の申請代行費用 |
• 備品費(据え付けの灰皿など) |
• 消耗品、映像・音響機器、観葉植物 |
• 機械装置費 |
• 机、椅子(固定式のものも対象外) |
制度の内容を理解したところで、いよいよ申請から受給までの具体的なステップを確認しましょう。
4. 申請から受給までの7ステップ
申請から助成金受領までの流れは、大きく7つのステップに分かれます。特に重要な注意点は太字で強調していますので、必ず確認してください。
- 計画と準備 事業計画を立て、設置したい喫煙室の仕様を決めます。必ず2社以上から見積書を取得してください。
- 交付申請 必要書類を揃え、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ申請書を提出します。
- 交付決定通知 労働局による審査後、「交付決定通知書」が届きます。この通知書を受け取る前に工事の契約や施工を開始すると、原則として助成金は受け取れません。
- 工事の発注・施工 交付決定の内容に従って工事を実施します。
- 事業完了と実績報告 工事が完了し、業者への支払いが全て終わったら、領収書や完成後の写真などを添えて「事業実績報告書」を労働局に提出します。
- 助成金額の確定と請求 労働局が報告書を審査し、助成金の最終的な金額を確定します。その後、事業者から「支払請求書」を提出します。
- 助成金の受領 指定した銀行口座に助成金が振り込まれます。
助成金を受け取った後にも、守るべきルールがあります。最後のセクションで確認しましょう。
5. 助成金を受け取った後の注意点
助成金を受領した後には、以下の義務が発生します。
- 財産の管理と現状報告 助成金で設置した喫煙室は、助成事業が完了した日の属する年度の終了後5年間は適切に管理し、目的外で使用したり、労働局の承認なく処分したりすることはできません。また、労働局から求められた場合、おおむね1年ごとに設備の運用状況を報告する義務があります。
- 消費税の返還 消費税の確定申告によって、助成対象経費に含まれていた消費税額が「仕入税額控除」の対象となった場合、その一部を国に返還する必要があります。
6. まとめと相談先
このガイドでは、受動喫煙防止対策助成金の目的から申請の流れ、受給後の注意点までを解説しました。この助成金を活用することで、従業員や顧客の健康を守り、より快適で魅力的な職場環境を築くことができます。
より詳しい情報や申請に関する相談は、以下の窓口をご利用ください。
- 事業所の所在地を管轄する都道府県労働局
- 受動喫煙防止対策に係る相談支援 電話相談窓口
- 電話番号: 050-3537-0777(相談は無料です)